書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 物語は行動である

人生は行動である。その時何を考えていたかより、どう行動したかが重要だ。心優しい地蔵様より、下心丸出しの詐欺師の方が、何もしてない奴より価値はある……まあ、俺はそう思わないが、何の行動も起こさない奴を評価するのは難しい。


行動を起こした結果、何もしない方がマシだったという経験は誰にでもある物だと思う。0っていうのは扱いが特殊だ。最初に行動して成功させるのは難しい。
最初にやった奴よりちょっと上を目指すのはちょっと簡単だ。最初にやったやつより良い物を作る奴らが何人か出てくる。だが、失敗する奴が同じ以上居る事は見逃される。
皆が行動しているから、自分も……そういう時点では価値はゼロに近くなっている。そして、その頃には何もしなかった奴はマイナスの評価を得るようになってくる。
一方で、皆が向かう方向と逆向きに飛び立つ奴が出てくる。他の人と違うっていうのは評価しやすい。皆が砂糖たっぷりのおいしいジュースを売り出す中、健康志向の苦いお茶を出すとする。他に似た商品が無いなら、大成功を納める余地があるし、見向きもされない危険もある。

 

物語は行動である。俺は普段、変化であるという言葉を好んで使うが、結局は同じ事だし、お前はお前自身にぴったりの言葉を見つけなければならない。
お前の書く小説は面白くないかもしれない。主人公が行動を続けているのに、物語であるかどうかさえ怪しい。
物語を書けないやつというのは、この「行動」の意味を分かっていない。
いいか? 朝起きる、立ち上がる、扉を開ける。それらの動作は、基本的に「行動」じゃない。少なくとも、物語においては行動とは認識されないし、物語に直結しないなら、書かない方がいい。

 

物語に出てくるキャラクターには欲求、つまり目標がある。それを得るための「行動」が物語を作る。
普通の学生が遅刻せずに学校に行く物語がつまらない理由は分かるだろう。いろいろな言い方ができると思うが、俺はそこに「変化が無いから」面白く無いという理由をつける。

 

お前はタバコを吸うだろうか? 俺は吸わない。吸ったことが無いので、吸う奴の気持ちは分からない。どのタバコがおいしいとか言われても興味は持てない。
一方で、タバコが大好きって奴が「禁煙」するとなると、話は別だ。禁煙自体は面白くないが、禁煙している奴の体験談は面白い。そこには必ず変化がある。
禁煙は行動だろうか? いいや、禁煙したいというのが欲求だ。その動機には、健康を維持したいとか、家族の信頼を取り戻したいなどがある。

行動とは「メンタルに通う」や「手持ちのタバコを全て燃やしてしまう」とか「タバコ代わりに野菜スティックを持ち歩く」などだ。
ニコチンが体から抜けきると、タバコを吸いたいという気持ちが和らぐらしい。ゆえに、物語の終わりを設定する事もできる。永遠に続く戦いでは無いので、他の闘病生活モノより気軽にオチがつけられる。
もし、お前か、お前の周囲の誰かがタバコを吸うなら、その禁煙という試みが大抵失敗するのを知っているだろう。友人曰く、
「禁煙ってのはいいものだ。納める税金は減るし、周りの人も優しくなるし、健康にもいい……何より、禁煙をやめた時タバコがすごくおいしく感じるんだ」
お、そうだな。

 

全てのキャラクターには目標があるべきだ。お前にだってそれはある。言うまでもないが「会社に行く」ってのは違うぞ。俺がここで言う目標は、やりたいのにやれてない事だ。
全てのキャラクターには生活基盤がある。毎日同じ生活の繰り返し。不満はあるけど秩序がある。苦しいけれど、やっていけない事も無い。人生はそういうもの。やりたいけれどできない。やりたくないけれど、やらなくちゃいけない。
だが、物語は変化を表現する。登場人物は何らかの理由でその生活基盤が破壊され、元の生活に戻る事は容易ではない。
それは、隕石が地球に衝突する程ドラマティックであるとは限らない。絶対に禁煙しなくちゃいけない理由があれば、端から見るならともかく、本人にとってはアルマゲドンだ。

 

お前は、現実で誰かに「俺は変わった!」と言われた事はあるか? まあ、想像してみろ。きっとお前は、そいつが興奮していればしているほど、冷めた表情をしているだろう。人はそう簡単には変わらない。
だが、一方で、友人が大きな事故に見舞われたとしよう。そいつは大変うかつな奴で、軽はずみな行動が生んだ自業自得な事故だ。それでいて、そいつが変わらなかったら、お前は呆れるだろう。
なんとなく変化の法則が見えてきたんじゃないか?

 

キャラクターには「目標」がある。目標達成の為に「行動」する。その間には「障害」がある。行動の結果「変化」する。

この障害についてをうまく考えなくちゃいけない。禁煙しようと考えました。禁煙に成功しました、じゃ誰も納得しない。
一方で、困難な状況を乗り越えればそれだけ説得力がうまれる。例えば、会社の上司に「ちょっと一服」と誘われたらどうする? 社会人のマナーだから……とここでタバコを吸うようなら、主人公として失格。あるいは、何かしらのフォローが必要になってくる。
主人公は上司から誘われるという状況に対して行動しなくちゃいけない。どうする? 喫煙スペースで野菜スティックをかじるのはなんとも間抜けだ。きっぱりと断るという決断は、言うのは簡単だが、現実には難しい。だが、難しい行動というのには価値がある。人間はピンチに追い込まれないと変われない物かもしれない。現実では知らないが、物語では、勇気ある行動は報われていいんじゃないかと思う。

 

キャラクターに弱点を持たせよ、と聞いた事があるか? 今日の話はそれに直結する。すなわち弱点の克服は多くの人間にとって興味深い事柄なのだ。
禁煙を例にあげたが、何でもいい。朝のランニング、おやつを控える、英語の勉強、小説を書く……ただ、それらを題材にするのはちょっと待て。そういうのは大抵、お前よりうまくやってる奴が居る。がんばっても価値が0じゃ面白くない。どうすればいいかはコンセプトを学べ。だが、その話は一端おいておこう。

 

あるいは、弱点が無いキャラクターだって、面白い話はあるじゃないかと思うかもしれない。そういうキャラクターが立ち向かう困難は、弱点が無くたって難しい、いわゆる不可能に挑む物語だ。現実的じゃないって思いながらも、「自分が同じ立場だったら同じ行動をしたい」という憧れを表現したりする。

 

また、それらの困難は、共感された方がいい。禁煙やダイエットの苦しみは、した事の無い奴でも共感できるだろう。差別やのけ者にされた痛みも分かる。
理解できるって事が重要だ。例え私利私欲の為に殺人を行う者であっても、工夫次第じゃ興味深いキャラクターになる。

 

よくできた物語というのは、興味深く目が離せないキャラクターが登場し、斬新な事件に巻き込まれ、予想外の出来事の連続の後、驚きの決断と共に納得のいく結末を迎える。
素晴らしい物語をそのように定義できても、できあがった物語というのは複雑な物だ。物語の作者は、読者にどれくらいその複雑さを認識させるかを決める事ができる。
物語に描かれる全ての出来事は何かしらの因果関係の力で結びついている。このブログではコンセプト、テーマ、キャラクターの三つを主軸に物語の構成要素を探っている。
それぞれの要素はシンプルであった方が認識しやすいが、具体的にしなければ実用性が無い。
具体的な出来事の羅列を、抽象的に表現する事で違った意味が生まれる。
シンプルな考えを元に、無数のアイディアを展開し、それらは複雑に絡み合い結びつく。ごちゃごちゃとしたそれらを、劇的な物語に変換する。時には分かりやすく説明し、時にはありのままを描写する。
それは物語に直接描かれるとは限らない。余計な回り道に思えるかもしれない。だが、人生に無駄な事なんかない。あるいは無駄を受け入れられなければ、真の価値を見失う。

 

今日もしゃべりすぎた。また書けなくなったら会おう。