小説講座 書けないのはコンセプトを蔑ろにしているからじゃないか?
その物語はどこへ向かうか?
物語がすらすら書ける瞬間というのがある。
自分がどこに居るのかハッキリ分かっていて、どうしても向かいたい場所がある事を知っていて、しかも、回り道する必要がある時だ。
そもそもたくさん書けるってどういう意味だろう。おそらくそれは、衝撃的展開の連続では無いはずだ。
衝撃的な出来事はいくつあってもいいが、一つで十分だ。もちろん、少ない程物語は短くなる。
自分の一日を物語にする事を考えよう。
出勤時に交通事故を起こし、意気消沈した所に強盗にあい、家に帰ると見知らぬ美女に結婚を申し込まれる。
おそらく、どれか一つの事件に焦点を絞って物語にするんじゃないか?
もちろん、すべての出来事を一つの物語に盛り込む事はできる。例えば群像劇にすればいい。衝撃を受けた出来事ごとに主人公を設定し、それぞれの物語にする。しかし、そのやり方でも、物語の焦点となる出来事があるはずなのだ。
そして、物語で最も文字数を費やすのは、衝撃的な事件やクライマックスでは無い。それらを盛り上げるための、あるいは納得させたりするための記憶に残らない文章だ。
物語の中でもっとも注目されるべき事件を見つけよう。
それは人類の存続が危ぶまれるような災害かもしれないし、嫌な性格の美人と席が隣になるというだけかもしれない。
問題はその事件が物語登場人物に与える影響だ。その事件がすっかり解決するまで、主人公たちが落ち着く事ができないなら、それはコンセプトになりうる。
物語のコンセプトを考えてみよう。
コンセプトとは物語の核である。物語の「魅力」を一言で伝える言葉だ。一つの言葉からたくさんのアイディアが生み出される事もあるし、たくさんのアイディアをまとめ上げてコンセプトとして打ち出す事もある。
なぜそんな事を決めておく必要があるのだろう?
コンセプトをしっかりさせておく最大の魅力は分かりやすさにある。
作者が魅力を常に念頭においておけるため、単なる説明のシーンですら、面白さを引き立てるパーツの一つとして仕上げる事ができる。
また、読者がコンセプトを理解する事で、先を予想したり期待したり、それが裏切られる楽しみを生み出す事ができる。
対立を生み出すシステムとしてのコンセプト
コンセプトとは対立を生み出すシステムとして考えてもいい。
アイディアとコンセプトを掛け合わせる事で、物語を作る事ができるものだ。
例えば、ラブコメディなどで、二人がカップルとして成立しない理由が形を変えたモノはコンセプトになる。
二人がくっつきそうなアイディアを思いついて試してみる。そして、コンセプトがうまく作用して、二人はくっつかない。
あるいは、とある事情で頂点を目指す話もコンセプトとして通用する。
復讐をたくらむ。理想の自分を実現させる。危険な場所から脱出する……それらができない理由。それを分かりやすくまとめたものがコンセプトだ。
コンセプトには狙いが複数ある事だけは覚えておこう。すべては面白さを生み出す為だが、そのための仕掛けがコンパクトにまとまっている。
物語の雰囲気、キャラクターの欲求や動機、葛藤等が組み合わさった物……とかを一言で連想させる言葉だ。
「大好きな異性が、大嫌いな同性と楽しそうに話している」
それは単純な言葉でありきたりな一場面だが、文字数よりずっと多くの情報が伝わってくるように感じないだろうか?
その対立は分かりやすく、読者にとっても作者にとっても、次の展開を予想するのは簡単だ。それまでのキャラクターの情報から、主人公が間に入ってアピールするか、肩を落としてその場を立ち去るかも予想できる。
主人公はうまくアピールを成功させて読者をスカッとさせるかもしれない。だが、敵対者を呼び起こし、更に悪い展開が予想されるだろう。
コンセプトによって生み出された対立を深め続けていけば、興味深い物語がすらすらと書けるようになる。
コンセプトとキャラクターの結びつき
コンセプトを表現するのがキャラクターの役割だ。
しかし、キャラクターは読者の視点で自然に考え行動しなくてはならない。
作者としては物語をすぐに解決せずに遠回りして欲しいのだが、キャラクターと読者は一番近道で解決する事を望んでいるべきだという事だ。
「さっさと告白しないのは何故だ? 何でこんな回りくどい事をする?」
その回りくどい行動があまりに面白ければ話は別だ。しかし、書くことが思い浮かばなかったんだな、と読者が作者の事を考え始めたらお終いだ。
キャラクターには欲求があり、それを叶えたいと思っている。
異性と話したいと思っているのに同性に邪魔されてしまう。邪魔するのは心理的な障害かもしれない。
「じゃあ、いいです」って言って欲求を諦めるようなら、少なくともその対立に読者は興味を持たないだろう。
そのキャラクターが鳥などの動物で無い限り「戦って勝ち取る」のは大げさで、そうするだけの理由が必要だ。
直接的なやり方はダメ。諦めてしまうのは論外。じゃあどうしよう?
キャラクターがここで悩むのは必要な事だが、作者がやるのはよくない。
コンセプトを考える時点で解決策を考えておくべきだ。キャラクターにあらかじめ特徴を与えておき、それに立ち向かうだけの力と、対立そのものは解決させない仕掛けを仕込んでおくのだ。
例えば、異性との会話に飛び込んだ主人公は、同性の方のキャラクターと仲良くなる事に成功するが、異性から嫉妬されるとか。
目論見はうまくいったが、結果は散々だ。
ヒロインに恋する主人公を考えてみよう。
例えば「恋人になりたい主人公と、友達のままの距離を保ちたいヒロイン」がコンセプトだ。
作者としてまず意識するべき事は「よくある状況」だ。
オリジナリティを出す事が最終目標なのだが、完全に見たことも聞いたこともない話を作り出すのは困難だ。それを思いつく事は難しく、表現には才能を求められる。
共通点を見つけだし、色を付けるのが最も確実なやり方だ。
○○って作品の××バージョンってやり方は嫌いかもしれない。しかし、意図せず似てしまう事は本当にあるし、それに気付かない事の方が危険だ。
片方が恋人になりたいと思っているのに対して、もう片方は友達で居たいというのはよくある話だ。
(告白をあしらう建前としてもよくある話だが、そうでは無い事にしておこう)
思いついたアイディアに色をつけよう。思いついたからには、何かイメージがあるはずだ。
コメディタッチの作品にしよう、とか。同級生なら同じクラス、学年が違うなら同じ部活動にしよう、とか。家の事情で政略結婚させられそうになっている設定を隠しておこう、とか。
よくあるイメージを膨らませていくと、オリジナルの要素が一つくらい思い浮かんでいるものだ。それがすばらしい物であるとは限らないが、思いついたオリジナルの要素をコンセプトに組み込もう。
思いを寄せる二人がくっつかない理由。なんとしても頂点を目指さなければならない理由。とある立場、とある職業に付いた主人公が持つ特殊な性質。それらを考えてコンセプトに結びつけよう。
実践してみよう
まずはお前が何を得意とするのかを見つけよう。
よいコンセプトを思いついても、表現するのが難しければ宝の持ち腐れになりかねない。
こういう話ならいくらでも書けるのに、という物を見つけよう。同じ展開ばかり書いているとマンネリに陥りかねないが、得意な事にひねりを加えるのは、苦手な事を克服する事よりもずっと簡単だ。
苦手な事に挑戦しろとは言わないが、今までとは違ったやり方を試してみるのはいい事だ。大抵悪くはならない。
自分が実際に見ている景色を書こう。よく見て模写したり、スケッチしろって言うんじゃない。美しい景色を見た時正直な感想を文字にするのだ。
自分の分身となるキャラクターを書く時、普段「綺麗だな」で済ませてるなら物語でもそうしろって事だ。絶対の法則じゃないけれど、自分がうまい物を食った時どんな反応をするかくらい覚えておけ。
人は過去の記憶から未来を予想する。
未知のモノを既知の事実から予想するのは確実性に欠けるやり方だが皆そうしている。誰かを好きになった事が無いなら、猫に向ける気持ちを書いてみろ。
自分が信じる真実を書け。
今日は、自分が書きたいと思っている理想ではなく、これなら簡単に書けそうだというものを見つけよう。楽しく無さそうな事でもうまくいくと楽しいものだ。
- 自分の記憶の中でもっともよくある状況を探そう。自分が毎日のように経験している事や、使い古されたベタな展開でいい。だが、対立が存在するか、対立が起こるとしたらどういう状況かを考えよう。
- 物語に当てはめてみよう。「日常」「きっかけ1」「対立・葛藤」「きっかけ2」「対決」「解決」
- 埋まらなかった部分を埋めるものを考えてみよう。
- それらを見直して、対立を生み出してみる部分を考えてみよう。
「きっかけ1」が起きた事で主人公は日常に戻れなくなり対立を通じて「きっかけ2」にたどり着き、事件を解決させ、新たな日常へと帰っていく。
きっかけ1がコンセプトとして使われる事が多い。例えばテロリストがやってきて、ビルを占拠してしまうとか。
ビルを戦艦にしたり、主人公を刑事から元特殊部隊のコックにしたりする事で違う物語になる。
多くの作品で試してみると「きっかけ2」以降にオリジナリティを見出す事は難しい事が分かるかもしれない。コンセプトとはずれるが、何を失って何を手に入れたかに注目してみよう。
今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。
↓俺がコンセプト・キャラクター・テーマ・その他でブログをまとめるきっかけになった本。直接的な影響はあまり受けてないと思う。