書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

物語講座 イメージを形にする

「小説が書けない」というヤツがいる。

一口に言っても書けない理由は複数考えられる。中には書きたいモノが見つからないという話も耳にするが、そういうのに対する俺からのアドバイスは無い。

書けない時にどうするべきか?

最も有効なのは、それでも書く事だ。

書けないヤツからしてみれば無茶な話だ。しかし、少なくとも俺は書けない時に気晴らしをして……好きな小説を読み直したりしても書けるようになった試しがない。

個人が立てる計画は「やる」ための動機付け程度に考えるべきだ。大抵の計画というのは明日には時代遅れになっている。方向性が正しいのか検討するのも結構だが、お前はよき計画者でありたいのか、それとも創作がしたいだけなのか、考えるべきはそれだけだ。

 

 

今日は「何を」書くかではなく「どうやったら」表現できるかを考える。

何かしら創作がしたいというのだから、何かしら表現したいモチーフが頭の中に一つはあるんじゃないかと思う。

物語を書くきっかけは何でもいい。アイディアは無数に存在する。美しい女性でも考えて見て欲しい。

こう……広い青空にふっくらした白い雲、緑の草原の上で両手を広げるワンピースの女の子。風が彼女の耳に囁きかけて、腰まで届く髪をなびかせる。踊るように舞い上がった麦わら帽子の行く先には……。

いつの間にか俺の頭の中にあった理想のキャラクターのイメージだ。書けないなと思ったらこのキャラクターを表現してみようと頭を悩ませて、色々書く。

しかし、未だにこのキャラクターを書ききる事ができていない。

このイメージにはコンセプトもテーマも見つける事ができない。物語の中核に据えるには弱い。

でも、とりあえず書くことはできる。

このキャラクターで物語を作ろうとすると、とにかく話が進まないのだ。俺の中の理想像というだけあって、人間としては素晴らしくても、物語キャラクターとしてはいくつもの欠陥を抱えている。

これは形にならない。そう思いながら書き進めるとそのうち、こういうキャラクターなら物語として形になるな、というイメージが浮かんでくる。

そのイメージがうまく機能するとも限らないが、とにかく先に進まない物語は保存してフォルダにしまい(二度と見直す事はないだろう)新たに書き始める。

 

 

物語は変化である。

俺の素晴らしい女性のキャラクターイメージが抱える欠陥の一つは、この変化を考えるのが難しいところにある。

完全無欠に愛おしい女性キャラクターが居たとして、最も有効な利用方法は彼女を殺してしまう事……あるいは、ラストのご褒美として再会させてやるとか。

両極端だが、物語にする事はできる。しかし、いずれにせよ、変化させた形が無数に存在しすぎて、復讐の物語か、修復の物語か……そういう大雑把な方向性しか与えてくれない。

選択肢がいくつもあるのはいい事だが、多すぎても途方にくれてしまう。これも一種の書けない状態の原因になりえる。

 

変化は最低でも二点が必要になる。変化前と変化後、その途中経過も入れるなら三点。

物語の最初と最後で表現される変化は象徴的だ。

物語の構成を学ぶのは、この変化に説得力を与えるためだと考えていい。

だが、何を表現するのか考えつかない限りは無用の長物になりかねない。

物語をまとめるためには、いくつかのアイディアが必要になるだろう。

まずはアイディアを出し、それを試さなければならない。

たとえアイディアが素晴らしくても、それを形にできなければ、どんなにたくさん集まってもまとまる事はない。

 

物語を書こうと思った時、最初と最後を真っ先に考えるのは効率的だ。

書く前に決めすぎたくないという人もいるが、今はアイディア出しの時間だ。やってみて気に入らなければ丸ごと捨ててしまえ。

絵を書く時にアタリを付けるような物と言えるかもしれない。ササッと人間の絵が書けるヤツの頭の中には人体比率だとか、大体の形がイメージできているのだろう。

物語の全体をイメージできないなら、地道に下書きを重ねて、必要な物を増やし、余分なところを削ぎ落とす作業が続く。

アイディア出しの時点で細部にこだわる必要は無い。

気にするべき点は一つ。今回は変化に注目してみよ、という話だ。

 

 

物語とは主要となるキャラクターの変化を表現した物である。

では、そもそも変化とはなんだろう。

非常に幅広い出来事が含まれるが、物語において重要な変化という意味ではキャラクターの持つ欲求が重要な意味を持つ。

つまり、その変化がキャラクターの【欲求】に「近づく」か「遠ざかる」かを考えれば、その変化が重要であるか否かが分かるはずだ。

沢山のアイディアを出そう。後から見直した時に、主人公の変化に関係無いなら削ぎ落とし、あるいは主人公の欲求そのものを変えたりする。

 

物語の進展を表す変化には、二種類が考えられる。

一つは「情報提示」もう一つが「キャラクターの決断」だ。

作者によって新しい情報が提示され、キャラクターが反応する。各キャラクターは己の欲求を叶えるために行動し、変化の圧力が高まる。こうして新たに起こる出来事は現在形で語られるが、未来の出来事を提示して読者の期待を高めたり、キャラクターの過去を語り動機を補強させたりする。これらは情報提示だ。

決断には小さな決断と大きな決断がある。人間誰しも最小の努力で済ませたいと考える物だ。最初は小さな決断に始まり、少しずつ変化の圧力が高まる。そして後戻りできないような大きな決断を下す。欲求を叶えるのに鍵の掛かった扉を開ける必要があるとする。「鍵を探す」というのは小さな決断かもしれない。大抵の物語で「鍵を殺してでも奪い取ろうとする」のは大きな決断になるだろう。

 

この変化を意識しながら書くのは難しい。理由の一つは、大抵の物語には二人以上のキャラクターが登場するからだ。二人のキャラクターの欲求が同じなんて事はなく、生き生きとした物語を書くならば、そのシーンでだけしか登場しないキャラクターにさえ欲求をもたせる必要がある。

かと言って、一人のキャラクターの欲求だけに集中して書くと、物語がご都合主義に感じて単調になってしまう。

 

俺がよくやる手法の一つは、視点人物となるキャラクターの欲求を極簡単な物にしてしまう事だ。具体的に言えば、男主人公を出しヒロインに惚れさせるのが最初の変化。以降、彼はヒロインと結ばれるまでは一切変化、成長する事はない。

その物語で最も葛藤し多くの複雑な変化をするのはヒロインの方だ。ヒロインはある目的があり、その目的の為に視点人物の男を利用する事を考える。物語の四分の一の地点までにヒロインの目的を明らかにする。

物語のちょうど真ん中では、ヒロインの目的を達成、あるいは大いに達成に近づく機会が与えられる。しかし、そのためには視点人物となる男が被害を被る事になる。

ヒロインは決断を迫られる。自分の欲求を叶えるために行動するべきか、それとも?

 

 

キャラクターの変化を考えよう。

問題はそれをどう表現するか、あるいはどう表現できるかだ。

絵を書く事ができない人間が漫画を書く事を考えてみよう。人物デッサンを始めるのもよいが、表現したい物語によっては棒人間でも十分漫画は書ける。ただ、自分が書くのが棒人間であるという自覚が必要だ。

表現できる人間が薄っぺらでも物語は書ける。星新一ショートショートのように、あえて人物を薄くする必要すらある。

自分が表現したい物語と、自分が表現できるモノを意識しろ。

それがピッタリ合致していても良い作品になるとは限らないし、ちぐはぐでも思わぬ効果を生むかもしれない。けれど、自分の狙いと結果のズレを知る事は有用だ。

 

試しに変化を書いてみよう。

まずは場面を描写する。よく晴れた空の下、草原の上の少女。

何が起こるだろう。風が吹いて、彼女の髪がふわりとなびく。

お前はそれに見とれて、舞い上がり、そして落ちてくる麦わら帽子に気付かなかった。突然に視界が帽子に遮られ、お前は尻餅をついてしまう。少女はそれを見て笑う。

この後はどうなるだろう?

何か新しい情報を提示する……少女の後ろに黒服の迎えが現れるとか。

キャラクターに決断させる……この後、どんな会話がされるだろう?

 

この話は物語としては実を結ばないかもしれない。

それでいい。荒唐無稽な話をしよう。今はアイディア出しの時間だ。どうせ他人には見せない。今日は特別だ。

創作者は創作している時間だけ救われる。物語の変化にだけ気を傾けろ。すると、何かが起こる。それは新しいアイディアかもしれない。決断はお前にしかできない。

 

今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。