小説講座 単純に考えて、複雑に実行する
物語は複雑だ。しかし、一つ一つの構成要素は至ってシンプルな物で、それが絡み合う事で複雑な物語になっている。
物語は複雑でなければならない。
大金持ちのペットの生活を考えてみろ。お前がハムスターなら幸せかもしれない。だが、人間がハムスターのような生活を送るなら、発狂するだろう。
一つ一つの構成要素はシンプルでなければならない。
言いたい事がシンプルでなければ話が理解できなくなって発狂するからだ。
対比という思考ツールは、すべての基本だ。
逆に言えば、人間は対比する事でしか評価する事ができない。
あるいは、お前はそれを意外に思うかもしれない。
優秀な人間かどうかは、比較的劣っている人が居なければ成立しない。
何かが起きた時は良いか悪いかの判断がなされる。
その出来事はお前にとって快楽か苦痛かのどちらかに判別される。
どちらでも無いがあるじゃないかと言うかもしれない。
いいや、そんな物は無い。判断が難しいという事はあるかもしれない。
時給500円のバイトをこなした、ではどうだろう。
利益という点ではプラスだが、日本の最低賃金の事を考えるとマイナスだ。
分かる、理解する、判断する。
それはつまり、一つの物を二つ以上にするって意味だ。
だから俺は物語をコンセプト、テーマ、キャラクターに分けて考える(どれでも無い物を表現方法にまとめている事はこの際考えない事にしよう)。
ちょっと良く分からないなって事があったら細分化して考えてみよう。
お前は先生に分からない事があったら聞け、と言われた事があるかもしれない。何が分からないのか分からない。
そもそも、分かるって事を理解するのが難しい。
お前が普段扱いかねている物を、友人が「これ、はずれるんだぜ」って言うような物だ。はずれる事が分かっていれば、理解は簡単だろう。
気付きってのは見逃されやすいんだ。
読者が物語を読むのはその気づきを求めているからかもしれない。
作者は気付きを与える者だとも言える。昔から作者が先生とか呼ばれる所以だろう。
今では誰もが何かに気づき、伝えたがっている。
作者は差し出がましくないようにそれを伝える。だから、物語は複雑でなければならない。
キャラクターが登場する。お前はそいつの一挙手一投足を見て、そいつがどういう人物か判断するだろう。
お前の価値基準から考えて「良い」人物か「悪い」人物か。
お前が物語作家なら、読者の反応を(少なくともある程度までは)気を使わなければならない。
簡単なところから考えてみよう。
例えば、道徳性だ。
そのキャラクターは能力面では劣っているかもしれない。要領が悪く、上司から評価されず、金に困っている。
しかし、あまり金を持っていなさそうな人物に損得勘定無しに、助けを与えるかもしれない。極端にすれば、借金を肩代わりしたりしてしまうとか。
人間として魅力あふれるかと言えば、微妙かもしれないが、道徳的観点から見れば、優れた人物と言える。
「これは道徳的魅力あふれる人物だ」としてキャラクターを物語の世界に送り出したなら、読者にその魅力が分かるようにしなくちゃならない。
つまり、そのキャラクターの道徳性を気付かせるキャラクターや出来事が必要かもしれないって事だ。
当然「お前って道徳的に優れた人物だよな」ってキャラクターに言わせてはいけない。
どういうキャラクターが必要だと思う?
既に例えは出している。「主人公を評価しない上司」や「金は無いけど助けを求めている人物」だ。
上司が「金のない客を相手にするな」と言えば、読者は反感を覚える。「お前が助けてくれなかったらどうなっていた事か」ってキャラクターが居れば、いずれも道徳性の価値に気付かせるポイントになる。
言うまでもないが、道徳性に優れたキャラクターを出せって言いたい訳じゃない。
よくあるシーンを想像して書くのが良い。
とはいえ「ヒロインのピンチに駆けつけるヒーロー」を書こうとして、様式美のチンピラが出てくるのはどうだろう?
一つ一つの要素は単純でも、物語は複雑であって欲しい。
物語で表現するものと、そのシーンで表現されているものを別で考えてみよう。
例えば「いい男を捕まえたいと思っているヒロインが芝居する」という前提がシーンの裏にあったらどうだろう。
すると、ありきたりな「ヒロインのピンチに駆けつけるヒーロー」のシーンに含みを与える事ができる。
ヒロインがチンピラに対してダメだしを入れたりしたら面白い。
せっかく書きたい話があるのに、それは技術的に難しいかもしれない。
書き始めをしっかり書いてしまうと、うまく想像できないシーンで躓く。全体を意識して描写しよう。
まずは自分が書けるシーンを考えてみよう。今すぐに思いつくシーンがあればいいし、日頃から、これなら書けそうだというアイディアを収集するといいだろう。
シーンに含みを持たせたらどうなるだろう。ひねりが利いた物語は退屈しない。実は○○だったら? という思いつきを大事にしろ。
書けるシーンから始まって、物語を進めていき、物語のひねりが思いついたら、書き直そう。すべてはラストシーンの為に。
覚えておかなくちゃいけないのは、俺が言うのは作者の都合だって話。
読者にとっては面白ければ何でもいいし、どんなに完璧な物語でも面白くない物は面白くない。
読むって事に関しては、読者の都合が最優先だ。読者が面白い場所を指さして、これが面白いって言うんだからしょうがない。
だが、書いてる時は作者の都合が最優先だ。書けない物は書けないんだからしょうがない。
何がヒットするかはよく分からない。読者だって「こういう作品が読みたい」とか「このシーンがこうだから面白い」とか言うけれど、実際はよく分かって無いんだ。分かってるやつなんていない。
やり方は自分で見つけなくちゃいけない。俺が言う通りにやってできないってのは当たり前で、俺の言う通りにやって成功したなら、それは偶然で、少なくとも言う通りにしたからって理由じゃない。
何だってやってみることだ。
買い物でもするように物語を書け。戦略を決めて計画を練り、綿密な分析をしつつ、衝動買いしろ。
今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。