書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 コンセプトはいいぞって話か、小説を書くのは料理に似てるよなって話


小説を書くのは~~に似ている。
小説の本質が人生の暗喩であるならば人生に似ているのは当然の事。本当の所~~の部分は何でもいい。


例えば料理に似ている。
だが、ド素人の書く小説は食えたもんじゃないが、ド素人でも、なんだかんだ食べられる物を作るじゃないか。だから料理をするのは、小説を書くことよりもずっと簡単な事じゃないかと言う人もいるかもしれない。
それは、違う。そんな事を言う奴はおそらく小説の書き方じゃなくて、料理その物を誤解している。


スーパーに行けば肉が売ってる。そいつに塩をかけて焼けば、あるいはそれは最高の料理と銘打っていいかもしれない。酒があれば口直しもできるし、知識があれば臭み取りになる事を理解できるだろう。栄養の事を考えるならば、野菜をつけてもいいし、バターでソテーして香り付けすれば上等な仕上がりになるだろう。


いいだろう。それに何点つけるか知らないが、料理は簡単だ。だが、それは現実の話だ。だけれど、それは所謂制作キットを使って作った場合だ。誰の助けも何の知識も無く、料理を作ってみよう。
そこは、何をしてもいい世界。自分以外には誰もいなくて、草原があって、草食動物がいる。奴らはこっちに気付いていて、草を歯ですりつぶしながらもこっちを警戒している。


料理の最初は肉を手に入れるところからだ。さあ、狩ってみせろ。奴らは俊敏だし、反撃は思いの外強力だし、それになによりかわいそうだ……。
塩を手に入れるのはもっと困難かもしれない。火のつけかたの知識はあるだろうか。あるなら、少しはうまくやれるだろう。


当然ながらたとえ話だ。実際の所、小説を書くのは料理に似ているが、料理は社会的に優遇されていて、おそらくその制作キットの種類たるや類を見ない程の種類がこの上なく簡単に手に入る分野で、だからこそ成功しやすい。それに、誰かうまくいってる奴の真似をするのがズルと言われる事も少ないし、推奨される事が少なくない。


小説を書くのが難しいと言っている奴は、この何をしてもいい世界でただ呆然としてしまうからだ。
そこは何をしてもいい世界で、例えば嫌いな奴を登場させて殺害してもいい。ネットに公開するなら小説のルールではなく社会のルールの方で警察の世話になるからやめておいた方がいいが、白い紙の上では何だってできる。

何でもできるのがかえって……難しい。

 

まずは材料集めからだ。
そう言うと、すごく効率的に考えようとする奴がいる。そういう奴は最短ルートで小説を書こうと考えて、それなりにうまく素材を集めるが、結局小説を完成させない。 むろん、一部の奴はうまく行く。肉に野菜、それから各種調味料。フライパンに包丁を用意して、後はコンロがあれば料理できる。そういうのを知っている奴は、まあ、それなりにうまくやる。


でもうまくいっていない奴は違う。肉は腐ってるし、野菜には毒がある。火はいつまで経っても点かないし、フライパンや包丁は、ある程度料理に慣れてから集めればいいと思ってる。
なんとかできあがった物に、マリネとかサラダとかとりあえずそれっぽい題名を付けてみる。食えたもんじゃない。それは分かってるけれど、そう言われるとムカつく。 人間には二種類いる。ムカついて、書くのをやめてしまう人間と、やめない人間だ。俺はやめられなかった方だ。

 

書くのをやめなかった人間は、ちょっと謙虚な気持ちになってうまく行ってる奴に聞くかもしれない。なんでうまく行かないのかなって。
奴らはいいアドバイスをしてくれる。やれ、味見をしろ。素材にはちょうどいい具合があって、加熱しすぎてはいけない。レシピ通りにやればうまくいく。
ごもっともだが、そんなかっこいいせりふでは、小説は書けるようにならない。でも、そいつは悪気があってそんな事を言ったわけじゃない。うまくいってる奴は、うまくいかない奴の気持ちなんてわからないとかそういうんじゃない。仕方が無い事なのだ。


問題は新鮮な肉の手に入れ方だ。よい野菜の見分け方だ。あるいは農耕を初めてもいいけれど……それはそれで大変な努力が必要になる。
なら早く新鮮な肉の手に入れ方を教えてくれよと言うかもしれない。だから俺はこんなたとえ話をしているのだ。

 

新鮮な肉は、たくさんある。腐るほどある。
それは、目に見えないけれど、そこにある。
目の前には無限に広がる草原。
中には隠れるのがうまいのが隠れてたりする。目に見える奴は素早くて、捕まえるのが大変かもしれない。


分かるだろうか。そいつらはコンセプトとか、つかみ、とか、ひねりとか、そう呼ばれてる奴らだ。
お前たちは、好きな料理はあるか? ステーキは好きか? ステーキのどこが好きだ?
うまいから好きだというのも悪くない答えだ。正解だと言ってやる。だが、教えるのに困る。
うまいのはうま味成分がたくさんあるからだって答えはもっといい。俺は肉のうま味の正体がアミノ酸だって教えてもいいし、その名前を教えてやる事ができるし、肉を焼くと、いい感じに細胞が壊れて、その肉汁を赤ワインや醤油でソースにしてやると、いいって教える事もできる。


コンセプトとは、料理の一番うまい部分だ。ステーキのコンセプトはうま味。あと、ソースに肉汁に醤油が入ってるとか、そういう奴だ。
おもしろい小説はたくさんあるけど、たくさん読まれてる奴は、コンセプトがいい。それがいいだけで、たくさん読まれる。
だってお前等は、焼き方がすばらしい何かって言われるより、最高の肉をただ焼いたって方が、いいだろ? 違うって奴は、知らない。


でも、肉だけでは飽きるし……すぐ食べ終わってしまう。そう思わない奴は、星新一とか、オーヘンリとか、そういう奴が好きなんだと思う。それはそれでいい。
おいしい肉を捕らえた奴は、すぐに料理しなくちゃいけないって思う。で、こんがり焼きすぎてしまったり、肉だけ出して、失敗する。失敗とは言えないまでも、思ったよりも、客が喜ばない。
おいしい肉だけでも悪く無いが、野菜が欲しい。そう思うようになったら、少しは大人になれたって事じゃないかと思う。人によっては、肉より野菜の方が好きってやつもいると思う。野菜はいらないけど、酒は欲しいって奴も当然居ていい。なんなら、野菜だけ出されるのも、悪くは無い。


実際のところ、素材が良ければ、そのまま出してしまうのが一番おいしい。野生の動物は、そうしている。
マグロは刺身が一番うまい。でも、そのままでは到底食えない。頭は、落としておこう。目玉はうまいが、客に出すと、おいしい以前にキモいと言われて傷つく。身も、食べやすい大きさにした方がいい。切り方が重要なのは知ってるか? でも、うまいマグロなら、素人が切ってもそれなりにうまい。刺身の切り方に一言ある奴なら、俺が言う事は何もない。


実際の所、小説を書くやつの中でも、腕が抜群にいい奴は、素材がどんなに悪くても……腐ってても、毒があってもうまくやる。腐ってる部分を見えなくしたり、発酵したとか言ったり、ごまかしたりして、お出しする。
それができる奴は、小説を書くのに、お前たちより苦労しないだろうから知らない。こういう奴らは、かえってうまい素材を渡しても、手を加えすぎてマズくするから、そっちの方に気を付けろ。


お前たちは、訳の分からない事を言うより、はやく、肉の捕まえ方を教えろと、いうかもしれない。
けれど、それはとても難しい……野生の世界は厳しいから、肉を手に入れるのに、ひと苦労だし、捕まえて、料理してみたら、おいしくないかもしれないし、毒が入っているのに、気付かないかもしれない。
だが、簡単な方法がある。例えば、うまく料理した奴が残した肉を使う事もできる。ふつう、野生の肉は、でかくて、一度の料理には使えない。ほとんどの場合、余った肉がある。その肉を使えば、ひとまず素材は確保できる。
でも、その肉は、あまり目立つようにしてはいけない。自分で捕まえた訳ではないから、うまく言った奴のように、うまい肉と醤油を使ったソースと、宣伝しては、パクリやろうと言われる。
そこら中から余った肉をたくさん用意しても、うまくいくとは限らない。客は何を食ったのか、理解できない。その中に腐った肉が入ってたら、おしまいだし、そういう肉をうまく使うのは、それなりの腕前がいる。
肉の見つけたは難しい。コツはたくさんあるから、教えてもいい。でも、長くなるし、それは確実なやり方じゃない。


うまい肉を手に入れても、そのまま使える訳じゃない。下拵えが必要だ。
臭み取りしないと台無しだし、料理に入れない方がいい部位もある。塩で味付けしたり、酢漬けにしたりするが、作る予定の料理によっては、よけい過ぎる手間で、台無しになる。
下拵えと言うのは、小説で言う所のアイディア出しだ。
肉に塩をふればうまいのは、誰でもしってる。
けれども、お前が手に入れた肉は、どんな味がするのかは分からないし、塩を手に入れるのは難しい。インターネットで調べれば、塩の作り方はたくさんある。けれども、実際作った塩は、色んな物が混じってるから、扱いが難しい。
ロースが好きな奴が、今日はヒレが食いたいと言う事もあるから、同じ肉の違う部位というだけで、価値がある。


料理の仕方も問題だ。揚げるのがいいという奴がいる。俺は、さっぱりしてる方が好きだ。素材の味を感じたい。そうでなければ、工夫を見せて欲しいと思う。

 

コンセプトをしっかりさせろと言いたい。いい肉を手に入れれば、素人でも、それなりの料理が作れる。
いい肉を手に入れたら、下拵えだ。どの部分を使わないかが問題になるかもしれないし、味付けもたくさん試さないといけない。どんな味になるか分からない。
下拵えが済んだら、付け合わせを用意しよう。結局野菜も、どこかから見つけなければいけないし、大変だけれど、すごくおいしくする必要は無い。肉がうまくて、野菜がそれを引き立てていれば、それでいい。まずくなければ上々。肉よりうまくできてしまう事もあるが……俺は嫌いじゃない。


こざかしいお前たちは、構成はどこに行ったと言うだろう。確かにないがしろにできない。でも、それは料理を作る時より、料理を食べるときに重要な物だと思う。
 コース料理はオードブル、メイン、デザートの準で運ばれて来たりするが、小説の場合、まずはトマト、次に肉の右端、酒で口を潤してから、肉……と、そこまで指定される。いきなりデザートを食べる事もできるが、店によってはマナー違反だ。
なぜそこまできっちり決められているのか。なぜこの順番なのか……それを研究するのに、構成はとても役に立つ。でも、料理を作る時にはそれほど役に立たない。
だから、これから小説や映画、ゲームをたくさん消費して、勉強しようという奴は、まず構成を学ぶといい。構成を学ぶ事は、小説とかの成分を知る事であり、それを効果的に出す順番を学ぶ事でもある。

でも、これから書こうという奴にそれを勉強しろと言うと、混乱する。また学び直す事になる。だから……書こうとする奴は、一端忘れていいと思う。くじけて、学び直そうという時、最初に構成を学ぶといいと、俺は思う。違うという奴は、知らない。


テーマ、テーマも大切だ。
皿の方が料理よりもずっと高いオードブルの次に、ジャンクとしか思えないハンバーガーを出されたら、困惑する。でも、そこにテーマが無いとは言えない。そういう事をするには、テーマを学ぶ必要があるし……でも、コイン一枚でバーガーが買える店で百枚要求されるようなサラダを売るようなもので、大抵は学んだって失敗するけれど。
肉の料理しかした事のないシェフはあんまり居ないと思うが……初めて作った料理が肉しか使ってない料理だった奴は、さほど、珍しくない、かもしれない。しかも、俺が言ったのは小説を書くたとえ話で、制作キットの売ってない世界の話だ。
むろん、プロになるなら、色々学ぶ必要があるかもしれないが、最高の肉料理だけしか作れないシェフなら、たぶん、そいつは一生カネに困らない。


とにかく、小説を完成させたいなら、まずコンセプトを学べ。いい肉を手に入れろ。

俺も知ってる事を教えたい気分だが、今日は既に話しすぎた。