書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 感動のさせ方


小説を書く時、一つ狙いを定めてみろ。
お前が小説で伝えたい事はなんだ? 漠然としたイメージを伝えたいのかも知れない。あやふやで、言葉にできない事を伝えるのは芸術の使命かもしれない。ピカソの事を思い浮かべてみろ。お前がやろうとしている事はとても難しい事かもしれない。

 

まずお前自身を感動させてみせよ……なんと陳腐な言葉か。そんな事は分かっている。できれば苦労していない。
まったくその通りだ。だが、その正論には真実が含まれているから正論なのだ。読者が感動する事ができれば、それは俺にとって小説だ。
だが、そもそも感動させるにはどうしたらいいのか。キャラクターが死ねば読者は感動するか? それとも現実さながらの臨場感のあるシーンを書けなければならないのか?
部分的には正解だ。大事なのは、お前がどう思うかだ。お前が何に感動するのか、それを現実に即した形にしたものが小説なのだ。

 

お前の中には書こうとしているイメージがあり、他の文章なんて一文字も書きたく無いのかもしれない。
主人公はもの凄く強くて、変化というものは全くしない。最初から最後まで最強。敵はもの凄く悪い奴で、周囲の人間が死を願う程の人物だ。
この主人公と敵の戦いは、お前の中で確固としたイメージになっていて、すこしも手を加えたく無いかもしれない。だが一方で、お前は少し不安になってきた。この戦いは、読者に面白いと思ってもらえるだろうか。
現に、お前はそういうキャラクターが活躍する物語を知っている。なら、自分がやってもきっと面白いはずだ……なのに、何故こんなにも自信が持てないのだろう。

 

自分の書く物が面白いかどうか疑問に思うのは当然の事だ。お前はまず、それを形にしてみてもいい。
だが、お前は他人がどのようなものに興味があるのかを知っているはずだ。お前は物語を好きなように書いていい。だが、読者が理解できる事をその物語の中に練り込んで、それだけは読者に伝わるように、意識してみたらどうか。


人を感動させるのはテーマかもしれない。お前は何に感動する?
お前は「師弟愛」に感動するかもしれない。師が弟子に教えを説き、弟子は師に報いる姿こそ、人間のあるべき姿だと思った。
まず師匠としてのキャラクターを出す。コイツはお前が考えた最強キャラクターでもいい。コイツが自分を尊敬してくれる弟子に教えを説く姿は、お前のイメージと合致するかもしれない。
師匠は、弟子を持つ程の余裕が無い方がいいだろう。今日は葛藤の話をする気は無いのだが、葛藤は面白いの基本で、テーマを力強く説得力のあるものにするので、たくさんあった方がいい。だが、テーマ性の強い作品には、テーマにぴったりあった葛藤がいい。だが、しゃべりすぎるので、その話はまた今度だ。
ともかく……そう、貧乏な師匠だ。そいつが弟子と出会う。プロットでは、二人は師弟関係を結ぶと書かれている。

 

お前が小説でそれを表現するのはとても簡単だ。一行で済む。だが、一行では小説にならないし……人を感動させたいなら、一工夫必要だ。お前も読者も、現実はそのようにトントン拍子に進む物とは考えていない。進む事もあるが、そういうのは大抵どうでもいい事で、自分がやりたい事に限って、誰かの邪魔が入ったりするものだ。

 

事実を羅列するのは簡単だが、人を感動させるのは難しい。まずキャラクターはお前のプロットに無い行動を取るかもしれない。それに、それを見た他人の反応まで想像しなくてはいけないなんて。そう思うかもしれない。
お前は、それを面白いと思ってもいい。将棋でも、カードゲームでも、そうだ。一人でやって、できない事は無い。だが、相手がいるのを考えてみろ。どっちが、面白い? 俺は面白い方が正解だと思う。
だが、最初から最強の奴には勝てない。弱すぎても、面白く無いが、まずは、読者のレベルを最弱に設定しておけ。そいつはイエスマンだ。お前の小説の誤字脱字を見つけても指摘しないし、大抵はお前が思った反応を見せる。お前が最初に想定する、お前に都合のいい読者だ。
その読者の前で、適当にキャラクターを動かしてみろ。読者はいつ「面白い」と言うだろう。あぁ……その前にコンセプトも練っておく必要がある。

 

主人公は誰か? 一説によると一番苦労する事になる奴が主人公であるという。その方がお前が書くのに役立つし、読者も困ってる主人公がすっきり事件を解決させるのを面白いと思う。
お前は最初に考えていたアイディアに捻りを加えて主人公を変えてみてもいい。師匠でも、弟子でも、敵が主人公のポジションをやってもいい。敵がやるなら、その物語はバッドエンドかもしれない。それはそれで、いい。

 

師匠を苦労させるなら、どうするべきか。師匠は貧乏だから金が必要だとする。金の為に弟子をとる。弟子の親は金持ちなのかもしれない。お前はその弟子をどのような性格だと予想する?
どのようにしてもいい。正解は無い。「師弟愛」を学べ。お前は、どういうシーンでそれを感じる? 例えば……弟子にプレゼントを買う為に、貧乏な師匠が食事を抜く、とか。そのシーンに居る弟子は、どういう性格をしている?

 

あるいは、弟子も貧乏だったとする。どうやったら師弟関係を結べる? 師匠がそいつを弟子にしたのは金が目当てでは無いらしい……つまり、才能があるんじゃないか?
その少年はすばらしい才能を使って、師匠の財布の紐を切り、逃げ出した。師匠はそいつをタダではおかない。飯が食えなくなるから。どうする? この時点で師匠は、まさかそいつを弟子にするとは思っていない。たぶん。

 

物語とは変化を書くものである。主人公が最初善良な者で、ラストで残忍な人間に変わっていたとしたら、それは興味深い物語だったと言える。続編が出たら読んでみたいかもしれない。
主人公が変化しないなら、他の誰かにその役を担ってもらう必要がある。例えば悪役。悪役が改心して善人になったとしたら、その物語は興味深い。
いや悪役がした事は許せない事だから、とお前が言うかもしれない。敵が居たから平和で無かった町が、平和になった。しかし、読者にそれをわかるようにしなくてはならない。主人公は町の誰かに設定して、読者には「やった、平和になった!」って一緒に喜んでもらわなくちゃならない。
だが、ちょうどいい所に弟子が居る。変化はこいつに担当してもらおう。お前はコイツをどのように設定したんだっけ?


テーマをキャラクターごとに設定しておいてもいい。師匠は「力は他人を助ける為にある」敵は「力は自分の為だけにある」と。直接口では言わないが、そう思っている。そういう行動をする。この二人は変化しない。相容れない二人はいずれ激突し、どちらかが勝利をおさめるかもしれない。
読者はそのラストにテーマを感じ取る。「力を自分のためだけに使わなかったから、主人公が勝利したんだ」読者にそう思ってもらえるなら、それで、いい。「最終決戦だけど、作者が主人公に加勢した。大人げない」と思われては最悪だ。

 

テーマは「変化しない」事で伝える事もできるが、「変化する」事で伝えるのが自然でわかりやすい。
もし、弟子が師匠と出会う前に「自分のために使いたいから、力が欲しい」と思っているが、何かしらの葛藤の後……師匠との修行か、何でもいいがその後で「他人を助けるために力が欲しい」と変化すれば、読者は嫌でもテーマを感じ取る。
ラストシーンでその弟子は何をする? 弟子が「他人を助ける為に力が欲しくて修行した」なら、最終決戦で力尽きた主人公を救うかもしれない。読者は勝手にテーマを考える。

 

とりあえず一つだけだ。読者はお前の物語を読み終わる。一つだけ、その読者の心に残った物を言い当てろ。お前がまず意識するのはそれだけだ。
お前は読者に感想を求める。読者は何か言おうとする。お前はそいつが言おうとしている事を助けてやる事ができる。
「師弟愛、そうだろ」
「そうかも、とにかく、弟子がかわいかった」
まずは、一つだけだ。一つ伝われば、全部伝わる。

 

一つだけ伝える事を意識してみろ。今日はテーマについて話した。けれど、何でもいい。とにかく、伝わりそうな物を何か一つ、決めてみろ。
俺はそれを伝える為に「葛藤」や「変化」を使った。だがそういう物は無数に存在するし、勉強したからといってすぐ使いこなせるような代物ではない。ネットで誰かが言っていた言葉は一見役に立ちそうだが、大抵そうではない。俺の言葉も、当然、そうだ。
一方で、お前がコンセプトやテーマから学んだ物は、すぐ使える。お前がそれを学ばなければいけない理由の一つは、それだ。すぐに役に立つ。

 

お前は一つずつ学ばなければならない。だが、おそらくそれは一番の近道なのだ。
お前を変化させるのは俺の言葉ではなく、俺の言葉を聞いて、行動した、お前の言葉だ。お前の言葉だけが、お前を変える。
お前から、お前を変化させる言葉を聞き出せ。それが、学ぶ、という事だ。

 

今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。