書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 おまえのやり方を探せ


お前にはお前に合ったやり方がある。それを探さないといけない。
他人の、特に成功している奴がどうやっているのか、興味を持つのは分かる。だが、お前の役には立たない。それを真似してみる事に価値が無いわけじゃない。やり方を変える事自体には意味がある。色々試せ。
他人のやり方がお前の役に立つなら……それで、少しでもやる気が出るなら、学ぶ価値がある。だが大抵の場合、うらやましいと思うだけだ。

 

お前はミケランジェロの事を知っているか? 芸術は天才の物であるというイメージを世に知らしめた代表的人物だ。あいつは六歳の頃には石を切り出して削っていたらしい。十四歳で芸術家の見習いとして工房に入った。システィーナ礼拝堂の天井画には常に十人くらいは熟練の職人が手をかしたというが、名を残したのはミケランジェロだ。

 

お前はもっと若い頃から本気を出していればなぁ、と思うかも知れない。また、ミケランジェロみたいな天才的な小説家が居て、そいつに勝つ事なんてできないだろうなぁ、と考えるかも知れない。あるいはそれは本当かもしれない。人生の考え方としては、それでも、いい。

 

それでも小説が書きたいなら、そんな事実の事は忘れろ。確かにお前より面白い小説を書くヤツはいる。けれど、それによってお前の面白いが影響を受ける事はほとんどないし、お前の面白いは、他のヤツとは違っているはずだ。
そもそも、お前の面白いがみんなと一緒だったら、たぶんお前は相当な幸せ者だ。友人が話す事は面白く感じるし、お前が昨日面白いと思った事を話せば、相手も面白いと感じるはずだからだ。

 

継続は力なり、という言葉がある。なるほど。きっとその通りに違いない。だけど、本当に?
人間のおかしな一面に、自分の成長が実感しにくい、というのがある気がする。悪い欠陥だとは思わない。
お前は「自分はこんなに努力したのに、全然上手になってない」とそう言った事があるだろう。
そう思う理由の一つは、まあ、高望みのしすぎだ。特に、お前がそれを好きである程に、自分の成長の度合いを理解してしまう。その他もろもろの理由もある。

 

おそらく、人間は経験をすぐに活かす事ができないのだ。その経験がお前の中にとけ込むまでに、時間がかかる。
お前は失敗した直後に同じ失敗をした事がないか? あるいは、昔はできなかったのに、今になってできるようになったとか? 子供の頃逆上がりができなかった理由は、単に身長や筋肉が足りて居なかっただけかもしれない。
お前の努力はすぐには報われない。三日後、一週間後、三ヶ月後……一年後……十年後?
いや、お前はもう十分にそれを理解しているはずだ。長く続けてりゃ上達するって事も、それが分かってても辛いもんは辛いって事も。
結局誰かの言う通り。過去は短く、未来は長く、今は一生続く。

 

人と同じ事をするな、と言われて、とりあえず人がやっている事を学ぼうとする人間がいる。世の中で誰かがやった事を並べて普遍的な物を探すというのならよいが、中には例外を探したり、一部だけを変えて違う物だと主張したりする奴がいる。まあ、間違っていると言う資格は俺には無い。だが、もしすでにやってみてダメだったら、そのやり方はやめろ。
人と同じ事をするな、というのは、自分のやり方を見つけろという事なのだと思う。
お前は過去に多くの物を学んでいる。そうとは知らないうちに、たくさんの物を吸収している。それは、お前だけでなく他の大勢も一緒に見聞きした事かもしれない。

 

だが、安心しろ。お前と、お前の隣の席に座ってる奴では、同じ話を聞いても、理解している事は全く違う。学校ではテストを出して、何をどのくらい理解するべきなのかを一律にしようとする。けれども、同じ百点を取ったやつでも、やはりすべては理解できていない。質問が変われば答えも変わる。たとえば、生徒それぞれにテストの問題を作らせたらどうなるだろう。むろん、指導要綱を手に入れれば百点はとれる。だが、百点以上を狙うとなったら、話は別だ。そして、お前のクラスには、おそらく百点以上を狙える奴が何人か居たはずだ。
お前は自分の書いた作品に何点つける? 他人はそれよりうんと低い点数をつけることがあれば、驚くほど評価してくる事もある。

 

お前がテストで百点をとれなかったのは、教師の話をちゃんと聞いていたなら、理解できなかったか、忘れてしまったからだ。
どうすれば覚えている事ができたのか、という話はしない。そういうのは記憶術の本とか、なんとか忘却曲線とか、そういうのを調べればいい。
問題は忘れてしまった方がいい事がたくさんあるという事だ。今回は、忘れたいのに忘れられない事は、別問題だ。
記憶のメカニズムに関して、調べてみるのは悪くない。そういうのに詳しい奴ほど、物を忘れてしまう事に、あまりネガティブなイメージをもっていない。
お前は本を一冊まるまる暗記できたらいいのに、と思うかもしれない。何か具体的な活用法があってそう思っているなら、それはその通りだ。だが、漠然と人生をよりよい物にしたくて、それを暗記しようというのであれば、愚かな行いだと言わざるを得ない。

 

アイディアとは記憶の残滓なのだ、そういう事もできるはずだ。お前はちょっとした失敗が、大ヒット商品を生み出した、みたいな体験談を聞いた事があるかもしれない。一つの成功に向けて、いくつも失敗を積み重ねるやり方も、それができるのなら悪くは無い。だがそれができるのはおそらく自分を信じてやまない人間だけだ。

 

正しい事なんて存在しない。あるいはそれを正しく分かってるやつなんてどこにもいない。俺は、そう思っている。
逆に言えば、全部間違ってる奴なんて存在しないという事だ。お前がいかに、自分がダメ人間だと言おうと、お前の中に何かしらの価値が存在している。
世の中の評価されている人間が、ありのまま評価されていると考えるなら、それは大きな間違いだ。そいつは、自分の価値を理解し、伝える技術を使っている。それは無意識かもしれないが、そうだとしたら、それを才能と言うのだろう。
価値を伝える能力は、後天的に取得する事ができる。小説の話に限って言っても、世の中には技術書が溢れている。だが、何をどのようにしたらいいのか、分かる奴なんていない。

 

お前の価値は、お前にしか学ぶ事ができない。お前はすでに、これまでの人生で多くの事を知り、それを忘却という方法で熟成させている。完全に腐っているように見えて実はそうではない。適切な学びがあれば、それらは良い肥料となり、新たに芽が出たアイディアをコンセプトに成長させる。
技術を学ぶのも悪い事じゃない。伝える技術がお前の発信するべき価値を見つけだす事もきっとある。
だが、お前が本当に、人と違う事をしたいと考えているのなら、まずお前自身から学べ。お前が過去を振り返る時、お前はそれを忘れたり、捏造したりしているので、それは実際とは全く違った物だ。
何に価値を見いだすのかは人によって違う。お前自身から学べ。

 

お前はお前のやり方を見つけなければいけない。色々試せ。最高のやり方を見つけろ。
ものすごい集中力がある奴は別だが、もし、お前が自分の集中力が足りていないと感じるなら、それは環境の問題かもしれない。お前にあった環境を見つけろ。
俺は、ネット環境があると、ダメだ。同じ悩みを抱えている奴はたくさん居るらしいから、俺がどうしているかは教えない。けれど、すごく単純な方法で、ネット環境から逃げ出している。それに必要なのは気合いじゃない。

 

モチベーションを維持するのは、困難だ。たぶんだが、人類が皆、自分のやりたいと思う事に一生懸命になれるのだとしたら、すぐにでも滅ぶんじゃないかと思う。大抵の人は、どこかで合理的判断で、人類にとって必要な仕事をするんじゃないかと思う。それなのに小説を書きたいと思うやつは、書けないのに、憧れで書こうとする奴はいる。努力して、書き続けようとする。それは、才能か、呪いか。

 

過去の自分を定義するのは今の自分だ。過去の行いを後悔するのだとすれば、それをさせた感情は呪いとなる。だが、今のお前が過去の自分を愛してやれば祝福に変わる。
なんともな台詞を吐くが……今の自分を信じてやれ。過去の努力を後悔するな。今のお前を認めてくれるのは、未来のお前しかいない。たとえ何億人に評価されようとも、未来のお前が今のお前を愛せないなら、お前が報われる事は絶対に無い。どうしてもそれができないのなら、今を変えるしかない。今の自分を、未来の自分に愛してもらえ。

 

今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。