書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 読者の反応を考える

自動的に行われるアウトプット

 単にパソコンの画面に出力する事もアウトプットと呼ぶ。しかし、人間がアウトプットすると言う時はもっと知的でなければならないような印象がある。アウトプットしたと主張したいなら、何か成果を残さなければならないような。
 今日はアウトプットをもっと単純に考えてみよう。
 脳に文字を読み込ませた時、何も感じないでいる事はむしろ難しい。
 俺の文章を読んだ瞬間、即座にアウトプットされた物があるはず。
 すばらしい文章だ。信頼できそうだぞ。心地よいリズムだ。気楽に読む事ができる。
 悪い方のアウトプットは提示すまい。まあ、俺の事はいい。
 文章を読んだ瞬間、人間の脳はまずそれを受け入れようとする。入力された瞬間に何かが出力される。
 しかし、入力したすべての言葉にアウトプットがあるわけでは無い。あったとしても認識されない。どのような文章がアウトプットを促すのだろうか?
 白い魚が二本足で立ち「ありがとう」と言ってお辞儀した。
 この文章を読んで、俺が実際に経験した事を話しているとは思わないだろう。だが、お前の頭の中では、実際に白い魚がぺこり、と頭を垂れたはずだ。
 その後で「こいつは突然何を言い出したのだろう」と首を傾げたかもしれない。「白い魚」はあだ名のようなものだろうか、かも知れない。

 まず理解しようとする。それから受け入れるか、反感を持つかが決められる。読んですぐ受け入れられるような文章は頭に残らない。荒唐無稽な話の方が頭には残りやすい。

 小説を読んだ時のインプットは、ビジネス書よりもずっと分かりにくく、しかも不確かだ。だから情報を取り込めるだけ取り込み、整理する事だけに忙殺される。

 ところどころに驚きや、感動があると、全体的にぼんやりした話になってしまう。そのシーンでは何が言いたいのかをはっきりとさせてみよう。

 主人公が出てきて、友人が出てくる。二人の関係は良好そうだ。その関係は心地よく、「安心」をアウトプットするかもしれない。
 しかし、突如事件が起こり、友人に理不尽な不幸が訪れる。その瞬間に「安心」が消えて「怒り」に変わる。

 書いた文章が読者に与える影響を考えよう。

面白さとは何か?

 すばらしい物語とは何だろう。
 たくさんの定義があるだろうが、今日は「たくさんの面白いをアウトプットさせてくれる作品」と考えてみよう。
 面白いを定義する訳じゃない。それは、例え同じ言葉で表現できたとしても、個人でそれぞれ違っているべきものだ。
 その上で、どのような物を面白いと思えるのか考えてみよう。

  1.  理解、共感できる事。
  2.  意外に思える事、未知の事。
  3.  感情を生み出す事、興奮できる事。

 まず、話が理解できる、という事は前提条件だ。何を言っているのか分からないというのは文字通り話にならないし、登場人物がなぜそのような行動を取ったのか理解できなければ、読者は物語に没入する事ができない。
 一方で、全てが理解できて、次に何をするのか分かってしまうキャラクターに魅力なんか無い。次に何をするのか分かるキャラクターが、馴染みの無い事件に巻き込まれた事で、読者は次の展開が予想できなくなる。手がかりは自分ならこうする、という読者の経験だ。読者の予想を上回る事が望ましい。
 物語は、共感→予想外の事態や行動→理解納得、という繰り返しだとも言えるはずだ。よくできた物語は、驚きの瞬間に何が起きたのか理解できる。
 また、キャラクターに共感する事は、物語の推進力にもなる。そのキャラクターが危機的な状況に陥った時、どうでもいいと考えるか、一体どうなるんだろうとページを進めるかは、そのキャラクターにどれだけ共感しているかが影響している。
 まずは地に足のついた物語を目指そう。理解と共感だけでは話にならないが、全ての物語に必要なものでもある。

 

 予想が裏切られるという体験をした事があるだろう。こっぴどく怒られると思ったらお咎め無しだった。なんとかなるだろうと思っていたら大きな事故になった、とか。
 知らない事を知るというのは、単なる蘊蓄的な話から、人生の本質をついた洞察でもあり得る。
 予想外の事が何一つないのは最低だ。物語で最高の瞬間の一つは、読者の予想を上回りキャラクターが行動する事だ。あまりに予想外の行動だと読書は納得しないが、その為に伏線を張っておけば対策できる。
 物語で起きる出来事の一つ一つに驚きを持たせよう。驚きと共に始めるか、驚きを持って終えるか、あるいは、半ばで驚きに遭遇するか。
 読者の視点での驚きを見つけよう。キャラクターが驚いたシーンで、読者として驚けないシーンを探そう。あるいはそういった視点で物語を読む事で違う何かを発見できるかもしれない。
 また、荒唐無稽なシーンや「狙った」シーンは頭には残りやすいが、反感を買いやすい事を知っているはずだ。裏切られたような気持ちと共に、頭に残りやすい。やるなら計画的にやろう。

 

 かっこいい、かわいい、等と言う感想は、エンターテイメントの作品における最高評価とする事もできるだろう。
 すごい、うらやましい、許せない……物語がインプットされた時、そのような感情がアウトプットされる。その感情は生み出されただけで役目を終えた訳では無い。
 かわいらしい、と感じたキャラクターがひどい目に合う。すごい、と思ったキャラクターならなんとかしてくれるかもしれないと希望を持つ。許せないキャラクターが天罰を受ける。
 感情が物語を繋ぐ。物語は長くなると、読者は何が起きたのか忘れてしまう。しかし、読書体験で得た感情は長持ちするのだ。
 実際に書き始める前にプロットを組むのは、こういった感情の流れを整理するためでもある。こういった感情の流れがあると理解できれば、どこから話を始めるべきか分かるし、回想をうまく利用する事もできるだろう。

実践してみよう

 物語の目的は読者をこの三つの「面白い」をアウトプットさせるもの、と言う言い方もできそうだ。
 だからと言って、ガチガチの理論でもって物語制作に取り組むと失敗する。
 歩く時に歩く事を意識するだろうか。左右の足を交互に出すとか、左右の手を振ってバランスを取るとか。重心をどこに置くとか、そういう事を意識してやろうとすると、かえってぎこちなくなる。
 技術として習得するか、あるいは、慣れが必要だ。

 お前は何を面白いと感じる?
 俺が何かを主張するまでもなく、お前は面白さについて多くを知っているはずだ。きっと、俺と同じように考えている奴もいるだろうが、俺と一字一句変わらず同じ事を言う奴はいないだろう。俺も、過去と今言ってる事はちょっと違ってるし、メモを見ないでもう一回同じ事を書こうとすれば違う文章になる。
 面白いを言葉にしてみよう。
 それを読者に伝える為にはどうすればいいか。少なくとも、その言葉をそのまま伝えてはいけない。

 例えばキャラクターについて考えてみよう。
 お前が書きたいキャラクターは読者に何を伝えるだろうか。
 かっこいい、かわいい、と言った読者の見たいもの、憧れを表現するのもよいだろう。
 読者と同じ立場に立ち、様々な出来事を経験したりして、世界のすばらしさを見せるかもしれない。
 過酷なハンデキャップを背負い、その逆境から這い上がり、読者を感動させるだろうか。

 自分が何を伝えたいのかハッキリさせてみよう。お前の物語をインプットさせた時、読者の脳からアウトプットされる、理想の反応を想定し、戦略を立てよう。

 1、キャラクターを設定しよう。全てを網羅する辞書を作れとは言わない。自分自身に「このキャラクターはどういうキャラクターなの?」と聞いてみろ。それに対してちょっと早口で解答できるようになっておけ。
 2、キャラクターの設定を発展させよう。どう表現するか、なぜそのような設定になったのかを考えろ。例えば、「明るくて気が利く」キャラクターは「実は殺人犯で、犯罪の証拠を隠す為に周囲の人間に何もさせない」事を望んでいるかもしれない。だから、「家の外では何もしない」とか矛盾した設定も取り入れる。特に読者から感情を引き出せそうなものを選び、理解、納得させる要素とセットにしておこう。
 3、キャラクターの要素を整理して、物語としてまとめよう。キャラクターの構成要素を一枚ずつカードに書いて裏側にして伏せておくようなイメージでもいい。物語が進むと、一枚ずつ表になっていき、段階的にそのキャラクターの事を知る事ができるようにしよう。いい意味で読者を驚かせる戦略を立てるのだ。「よく働く館の主人」「行方不明になった双子の娘」「主人はその娘をどう思っていたか」「娘の日記の発見。館の主人の言葉との矛盾」

うまくいかないなら考え方を変えよう

 考え方を変えると新しい物に出会える。
 まずは、自分の心に聞いてみるのがいいだろう。昔読んだ本を読み返すと、昔とは違った考えにたどり着き驚く事もある。
 お前は何を面白いと感じる? どういう面白いを伝えたいと考えている?
 理詰めで考えればうまくいく、という事ではないが、うまくいかないならやってみる価値はある。
 また、その物語で使われている技術に注目してみるといいだろう。読者が驚くのは偶然ではなく作者が平凡な見せかけの物語を想定しているからかもしれない。
 お前が面白いと感じた時、その面白いと感じた理由を言葉にしてみよう。間違っていてもいい。未来の自分と答え合わせしてみるのもよかろう。

 また、書かれていない事が最も重要な感情を生み出している事に気付くかもしれない。
 言葉にしなければ伝わらないとは言うが、言葉にしなかった事が最も力強く何かを伝える。それは、キャラクターにとっては知られたく無い事だが、作者の伝えたかった事ではありえる。

 着飾った可愛らしさがある。なぜ着飾るのか? 醜さがその裏にあるかもしれない。醜さは心の醜さかもしれないし、単に見た目でもいい。キャラクターが醜さをさらけ出す瞬間を考えよう。そうしてでも手に入れる価値があったのだ。
 どう表現すればいいだろう。魔法的な力を用いて変身させる事もできる。子供を助けるために、魔法を解いて真の自分を晒すシーンを思い浮かべてもいい。
 魔法は美容整形だとか、またはサイバネティクス置換など、色々な要素に変換可能だ。

 今日もしゃべりすぎた。書けなくなったらまた会おう。

 

↓これもいい本。何度も読み返してる。今日の記事もかなり影響を受けてるはず。