書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 キャラクターを書く上で唯一気にすべき事

 

小説を書く上で誰もやりたがらない方法の一つは、キャラクターが出てこない小説を書く事だ。キャラクターとは人格をもった登場人物という意味で、虫でも神でもまるで人間みたいな考え方を持っているなら、そいつはキャラクターだ。
ただ動き回る虫を描写していても、読者はそこに人間的な考えを見る。たとえ虫でも、もし親が子供の為に犠牲になったとしたら、お前はそれを見て感動するかもしれない。実際の動機はどうであれ。

 

キャラクターについて大切な事は……たくさんある。
まず共感されるキャラクターである事が基本である。共感されるキャラクターを書くコツを掴めば、小説が書けるようになる。
共感できるキャラクターとは、そいつの事を理解できるという事である。物語が始まって最初にやるべき事は、これだ。読者は理解できるキャラクターが一人いれば、とりあえず安心する。


キャラクターに読者を共感させる手段はたくさんある。お前は誰かを他人とは思えないと考えた事はあるか? 他人が行動したのを見て、自分も同じことをするかもしれない、とか、自分も同じ状況になった時、そいつと同じ行動をしたいと思ったら、お前はそいつに共感したという事になる。

それは人間らしいミスをするとか、それを誤魔化したりする姿とか、欲しい物があるけどお金が無いとか、困ってるやつを助けようとするとか……そういうキャラクターの姿を見た時。お前がそういうキャラクターに共感できるとしたら、お前にもそんな経験があるからかもしれない。無くても想像できれば十分だ。


例えば、クラス替えで友人と同じクラスになれるかドキドキしているキャラクターが居たとする。あるいは、いじめっ子と違うクラスになりますようにと祈っているかもしれない。そうしたドキドキを、お前は人生のどこかで味わった事があるんじゃないか? 無くても想像できるかもしれない。それができないヤツは、小説をなぜ読むのだろう。
お前は、いじめっ子と同じクラスになりたくないと願うそいつが、他人に思えなくなる。そいつがクラスの名簿で自分の名前を見つけ、その欄の最後にいじめっ子の名前を発見し、友人は背後から肩を叩き、別のクラスだね、と笑顔で伝えてくる。

 

共感できるキャラクターを生み出せれば、小説を書く事ができる。お前は逆張り野郎だから、例外を探しているのかもしれないので、教えてやる。反感を買うキャラクターを書ければ小説は書ける。だが、応用としておきたい。応用と言っても、物語の第二段階であり、基本の一つと言える。


お前の共感を得たキャラクターを、お前は他人のようには思えない。いじめっ子と同じクラスになったそいつは、どうやら、いじめられっ子に目を付けられなかった。お前は一安心すると共に肩すかしを食らった気分だ。しかし、いじめっ子はいじめっ子だから、いじめをする。クラスで標的になったのは、メガネの女の子だ。
お前はいじめっ子にまず、反感を覚えた。次にメガネの女の子にも反感を覚えるかもしれない。だって、なんの理由も無く虐められるなんて事は(現実に起こるかもしれないと想像できるとしても)きっと無いはずだ。虐められる理由がある。例えば……メガネをしているとか。いや、しゃべり方がぎこちないからかもしれない。とにかく、何か理由を探す。
しかし、主人公の視点で見ていると、別にメガネをかけたりしている事はそれ程の罪には思えない。主人公は何かよい策を考えつくかもしれない。もしその策がいじめっ子からメガネの女の子をクールに救い出したとしたら、お前は主人公に夢中になるかもしれない。

 

ところがこのメガネ女、助けてみるととんでも無い女だった。普段人に向ける事のできない鬱憤を動物にぶつけていた。お前は憤りを覚えるだろう。
いじめっ子がその動物の虐待を見て、メガネを虐めていたとする。お前は反感を覚えていた筈のいじめっ子に共感を覚えるかもしれない。こいつは人間を虐めるクズ野郎だが……どうやら、動物に同情する心を持っているのかもしれない。
物語の残りページ数を確認してみる。お前に構成の知識があるならば、次の展開が分かるはずだ。そうだ。メガネ女が動物を殺すのには理由があった。メガネ女が殺す動物は魔獣と呼ばれ、放っておくとよくないのかもしれない。
主人公は、どうする? まだ迷っているけれど、お前が共感するだけあって、それは当然の迷いに感じる。でも、お前は主人公がどういう決断をするのか分かっている……まだ残りページがたくさん残っているのだから。

 

共感と反感は別々に考えてもいいが、結局は同じ物と考える事ができる。現実の話はよく分からないが、小説ではどっちでもいいヤツは虫以下の存在だ。読者にとってはおっぱいの大きい受付嬢より、親において行かれないように必死に走る子供の虫の方が興味深い事もある。だって自然界で、親とはぐれた子供は……多分、死んじゃうんじゃないか?
お前が興味深いと考えていた虫を踏みつぶす人間が居たら、お前はきっと無条件にそいつに反感を抱く。その人間が踏みつぶした虫を食べ始めたら、どうだろう……?
いずれにせよ、キャラクターについて学べば読者を引きつける方法を学んだという事なので、小説が書けるようになる。

 

お前は物語が始まった直後、そこが西暦何年で……場所は学校で、女の子はかわいくて、歩いてる。みたいな描写をがんばるかも知れない。それは、それでいい。
でも、お前がそれをがんばる理由はキャラクターに共感させるためだ。反感でもいい。とにかく読者に注目させて、どうでもいいヤツでは無いと分かってもらわなければならない。
例にもあげたが、派手にやらかせとは言っていない。行動としては、何かを言うべき所で、何も言わない事が、すごい共感する行動になる。いいえと言うべき所ではいと答えて、誰も見てない所で泣いたら……その技は強力なので、うまくやれば凄い共感を得る事ができる。逆にあざといと感じてどうでもいいと思われるかもしれない。それは最悪だから、そうならないようにしよう。


物語のはじめに誰かを注目させたら、後は物語が終わるまで、誰かに共感か反感か、とにかく興味を持たせ続けるようにしよう。お前が好きな作品は、きっとそういうキャラクターがたくさん出てくるだろう。
キャラクターについて実践する事、まずは共感させよう。お前がそれを意識できるようになれば、小説が書けるようになっている。

 

お前はこの話を聞いて、好きな作家の作品を読むかもしれない。それは、それでいい。
でも、お前が今まで小説を書けずにいて、小説を書きたいと思っているなら、やめろ。
お前は素直に好きな作家の話を読み直して「これは共感」「これは反感」と行動に対してラベルを張る。でも、お前が好んで読むだけあって俺が教えていない技がたくさん使われているから、混乱してしまうかもしれない。

 

お前はこざかしいから、俺が唯一気にすべき事と言っているのに「キャラクターに注目させたり、興味を持ってもらう手段は、共感と反感だけではないぞ」と気づいたかもしれない。それは正しい。だけど……そこまで意識できたら、もう小説は書けているはずだ。書けないのなら……まずは、一つずつだ。


お前は他人から学びすぎているから、小説が書けないのかもしれない。
運転した事はあるか? 運転は簡単だ。事故を起こさなければ、みんなそう考える。
でも道路交通法には難しい事がたくさん書かれていて、学べば学ぶほど……運転は難しくなる。ルール無用で走り回るのとは別種の息苦しさだ。
どちらも苦しいけれど……その両方で苦しむ必要は無い。


お前はもう書けるようになっているかもしれない。学ぶことで書けなくなる事もある。
書けると思ったら、学ぶ前に書いてみろ。
分からない事があったら、まずおまえ自身に聞いて見ろ。お前は、お前が思っている以上にこざかしいから、きっと答えをもう知っている。できなかったら、その時考えろ。

今日も喋りすぎた。お前がまた書けなくなったら、また会おう。