書きたいけど書けないやつのための物語講座

俺はしゃべりすぎるから、全部読まなくていい。お前が書けると思ったら、すぐ読むのをやめて、書け

小説講座 物語の作り方


俺はこれまで物語の構成について書く事を避けていた。第一に構成の話はとても面白いからだ。俺はその手の話を聞くのが好きで、結構いろいろ知ってる。だがまあ、面白いだけあって、俺より説明がうまい奴がたくさんいるから、俺は詳しくは語らない。構成の話はいくつもの種類がある。だが、俺は結局全部同じ事を言っているのだと思っている。
第二に、人から聞いた話は役に立たないからだ。いや、実際人の話を聞くのは重要で、必要な事だが、人の話をそのまま実行して、うまく行った試しが無い。それは、俺の性格によるところかもしれない。


人から聞いた話は自分で使えるように加工しなくちゃいけない。何故なら、教える方も言葉にした時点で本質を歪めて伝えているし、受け取る方も自分の経験に当てはめたりして理解するので正しく認識できていないからだ。伝えたかった事の本質は二重にゆがんでいる。
そのゆがみは結構ひどい。言葉の欠陥という問題だけの話ではない。たとえばお前の一番親しい人が、何かを言う。親しければ親しいほど、その言葉には裏がある。親しいほど、その裏にある本質を見抜きやすくなる。
「ゲームなんかやめて、勉強しなさい」
それを言われた子供はむっとする。勉強がゲームよりもそんなに大切なのかと反感を覚える。言葉通りに受け取れば、その言葉は数通りの意味しか無い。
だが、お前は言葉の裏を読む。発言者の「愛情」あるいは、それを言う直前不機嫌になるような事があったのを知っているなら「八つ当たり」ではないかと考える。そうでなければ大人としての「社会的体面」を気にしているのかもしれない。
また話がそれたな。本題ではない。

 

カードゲームをしよう。実物は用意しなくていい。言葉遊びだからだ。
今回は俺がプレイするから、お前は後ろで見ていろ。一応言っておくが、手の内をすべて明かすつもりはない。
まずは手札の中から一番いいと思う物をテーブルの一番目立つ場所に表向きで置け。俺が置いたカードには「デスゲーム中に乱入してくるヒーロー」と書かれている。
テーブルを挟んだ俺の向かい側には、もう一人の俺が居る。そいつは俺の内なる読者で、対戦相手だ。そいつは俺が置いたカードを見てやや難しそうな表情をしているが、顎で先に進めろと示す。そうしたら、ゲームスタートだ。

 

まず、フィールドは三つに分かれている。それぞれ「はじまり」「なか」「おわり」とか、そんな感じの意味を持つ。
俺は手札のカードをそこに裏側に置いていって、物語を完成させる。完成させたら対戦相手が「はじまり」から順にカードを表にしていく。対戦相手は気に入らないカードを捨ててもよい。最終的にそれが物語としての形を保ち、対戦相手が満足したら、俺の勝ちだ。
敗北条件はカードが出せずに諦めてしまう事だ。

 

お前は俺の手札を覗き見る。ルールが分からないならその手札が強いのかも分からないだろう。手札の枚数が多すぎるように感じる。あるいは、なんとなくゲームの察しがついて、ニヤニヤしているかもしれない。
また、テーブルの端には白紙のカードの束とペンがある。俺はそこに言葉を書き入れて、手札に加える事もできる。

 

俺はこのゲームを始めるにあたり、切り札を用意しておいた。
まずは、フィールドのはじまりとなかの間に「正義のヒーローの乱入」と書かれたカードを置く。
そして、なかとおわりの間に「ヒーローと悪役の対決」カードを置く。

フィールドに置かれたカードは二枚。だが、物語はだいぶ引き締まった。
俺は物語に足りない物を理解している。ひとまず、説明不足だ。俺は手札の中にある「説明カード」を集めてフィールドに配置していく。

 

まず、はじまりフィールドに「敵の説明」カード。それに「金儲け」「残虐行為」「利己的主義者」のカードを重ねる。
その隣に「ヒーローの説明」。「機関に所属」「プロフェッショナル」「お人好し」カードを重ねる。
さらに、おわりフィールドに「決着」カードを置いて「ヒーロの勝利」カードを重ねる。

 

これで物語の大筋は決まったようなものだ。手慣れた物だろう。しかし、このゲームをプレイした事がある者なら、ぜんぜんカードが足りていない事にも、俺の手札にカードが溢れている事にも気付くだろう。
俺はついに「主人公の説明」カードをはじまりの一番右端に置く。更に「金欠」「大切な人の為」「人生に絶望」「騙される」カードを置く。
(主人公とは、この場合物語の視点となるキャラクターの事だ。俺は以前変化を担当するキャラクターとして語った事があった気がするので、今回は省略する)
主人公カードの隣に「何故デスゲームに参加する事になったのか?」と書かれたカードを置く。
俺は今のところ、物語の始まりは、主人公が借金を負い、それは妹の学費とかの為で、金策の為に騙されてデスゲームに参加する事になるんじゃないかと想定している。実際にどうなるかは、対戦相手次第だ。

 

「主人公」カードの次に「敵の説明」カードが来るように配置して、その次に「デスゲーム」カードを配置する。
まあ、何人か死ぬ事になるだろう。「でかい男」「卑怯な男」「感じのいい奴」「こざかしい奴」「優しい人」などのカードを置いて、ひとまとめにする。更に「武器の支給」「食料の在処を示す地図」など、とりあえずそれっぽいカードを置いておく。まだ足す必要があるかもしれないし、一枚も使わないかもしれない。

 

「デスゲーム」と「敵の説明」カードの下に「行動」カードを配置する。
主人公はどのような立ち回りを見せるだろう。その前に周囲の奴らから行動をっきめてもいい。「仲間を作る」「裏切りを画策する」「逃げようとする」「玉虫色の行動」。まあ、思いつく限りのカードを置いておく。
今回主人公はどちらかと言えば善玉っぽい。だから「哀れな奴を助ける」「強そうな奴に目を付けられる」などのカードを置いて見る。一方で俺はそのうちヒーローが乱入してくる事を知っている。少し無茶をさせてもいいかもしれないと考える。「主人公の処刑が決まる」カードを置く。
始まりは良い感じにたまってきた。おわりのフィールドを見よう。ひとまず置けそうなカードを手札から選ぶ。
「敵組織の壊滅」これは良さそうだ。何故壊滅するんだろう。「主人公の行動」カードをその下に置く。そして「スポンサー」というカードを思いついて、そこに置く。そうだ。主人公がスポンサーの正体に気付くんじゃないか? 主人公がそれを公表し、敵組織はその不手際からスポンサーの怒りを買い、手を切られる。
だが、この、設定上冴えない主人公にそんな事ができるのか? きっと、協力者が居るんだろう。むしろ、スポンサーを公表する計画は、その協力者の者で、主人公はそれに協力したんだろう。だが、ややこしいから主人公は主人公だ。

 

俺は、なかのフィールドを見た。「ヒーローの乱入」の次に「協力者」カードを置く。「大人の女性」「謎めいた雰囲気」を重ねる。
俺は「ヒーローと同じ組織の所属」というカードを置こうとして、迷う。自然だがそれでいいんだろうか? 俺はそのカードの下に「敵組織の裏切り者」と書き加えた。どちらかは後で決めてもいいし、他に書き加えるか、捨ててしまってもいい。

 

うむ……「なか」のフィールドががら空きだ。
「殺伐とするデスゲーム」「ヒーローの活躍により混乱」「協力者のサービスシーン」カードを適当に配置してみるが、どうも、しっくりこない。

まあ、ここまで形になれば、手札のカードの数でごり押しして勝利に持ち込む事もできるかもしれない。
一方で、出来の良くないシーンが続くと、内なる読者が怒り狂い「なか」の部分の途中でテーブルをひっくり返してしまうかも知れない。
実際のところ、うまくいくシーンができるのは偶然で、奇跡を待ちわびるように、何個もシーンを書き、よくできたシーンだけを残すのも悪いやり方では無い。上達法としては王道だろう。

 

効率的にやる事が良い事だとは限らないが、ここで一旦物語の全体像を見よう。
主人公には借金があり、デスゲームに参加、処刑が決まる。
ヒーローが乱入し、なんやかんやある。その過程で協力者と出会い、なんやかんやあって、敵の中枢を目指す事になる。
ヒーローは敵の強い奴と対立し、戦いを始める。それから隠れるように、主人公と協力者は敵からデータを盗み取り、裏に居るスポンサーを世間に公表する。大企業から手厚い加護を受けていた敵は、それを失い、ヒーローに敗北する。

 

なかなか順当な物語だ。お前がどうするかは知らないが、俺ならド真ん中に、予想外かつ最悪の危機のカードを置く。それを置く事で、なかで起きる出来事を二つに分ける。
「最悪」カードの右側は、ラストに繋がる伏線を張っておく。協力者は謎めいて居るが、後から見るとたぶん「スポンサーのデータ」を欲している事が分かる。「敵の力」は企業の加護によって実現しているが、今は隠しておく。だが「敵は無敵の力を発揮する」

 

「最悪」の地点では何が起こるか。色々カードをおいて試してみる事にする。
「協力者の裏切り」それを置いて、今からラストを改変するのも手だ。
「ヒーローが致命傷を負う」主人公は一度データを諦めて、主人公復活の為に行動を始める。主人公の活躍で、ヒーローは復活、ラストが始まる。
「人質を取られる」救出ミッションの始まり。まあ、悪くないようにも感じる。
最悪の地点が決まれば、後は自然とシーンが埋まるはずだ。何せ事態は最悪。今すぐ動かなければならない。

 

さて、ゲームはここで中断にしよう。
物語を実際に作った事のある奴なら分かると思うが、まだまだ練り込みがたりないはずだ。このまま書き始めたら挫折する。
少なくともテーマについてはもっと早めに考えておくべきだろう。雰囲気エリアという場所があって、そこに「コメディタッチ」とか「家族愛について」とか、そういう物語全体を定義する特殊なフィールドの話を、俺はしていない。

 

また、本来であればもっと「疑問カード」がフィールドに溢れる。作者の疑問「このキャラクターはなぜこんな事をしたか」「企業はどのように収益を得ているのか」あるいは読者の疑問「次はどうなる」「おや、隠し事をしているのか?」「さっきと言ってる事が違うぞ」など。
この疑問カードは、必須という訳では無いが、あればある程、お前にとって役に立つ。どこがいる部分でどこがいらないか判断基準になるし、読者の予想をする事で次のシーンが思い浮かぶ事も少なくない。「おお、こういう理由でさっきは妙な行動をしていたのか!」読者から理想の反応を引き出せ。

 

一応言っておくが、俺は毎回こんな形で物語を作っているのではない。いろんなやり方を試している。だが、結局やってる事は他の奴らと一緒だ。言い方が違うだけ、具体的には違うだけ。たどり着く場所は結局同じ所だ。道は無数にある事は知っておけ。どんなに険しい道でも、同じだ。

 

ゲームをしている途中に読者がテーブルのカードを腕で薙ぎ払って、新たな一枚のカードを出して来る事がある。そのカードは中々悪くない……あるいは、最高かもしれない。

俺は今回のデスゲームの話を結局没にした。
プロットだけでも結構な文章量だったはずだ。協力者が幼女になったり老婆になったりしたが、結局ダメだった。
主人公の活躍とヒーローの活躍が、うまく一致させられず、ちぐはぐのまま……他に書くことを思いついたので、捨てた。それを掘り起こしてきた。文章として残していたわけじゃない。今回は思い出しながら書いた。
今から書き直すなら複数主人公の群像劇とかを試すかな?

 

今日もしゃべりすぎた。また書けなくなったら会おう。